箏の年間製造数はたったの3900。50年前より1/7まで減少
朝日新聞デジタルトップニュースフォーラム「純邦楽、深刻な危機 箏の年間製造数はたったの3900」という記事が掲載されました。純邦楽の分野第一線でご活躍の先生方が見解を述べておられます。
私も箏を愛する一人として危機に瀕して行ってきた工夫について記しておきます。
2歳から箏のお稽古を続けてきており箏の人口がみるみる減っていく様子を目の当たりにして参りました。そして既存の家元制度から離れ、箏による音楽療法「箏回想法🄬」を考案し、実践を重ねて参りました。
それでも、やはり邦楽を愛する一人ですから、一般社団を立ち上げる際に理念として掲げたのが「箏を通して和文化の魅力を発信・普及・新たな価値を創造し和文化人口の増加に繋げます。」ということでした。
発信→演奏活動を通して、広く親しんで貰えるような選曲・演奏をすることです。
普及→体験を特徴とした小中学校での伝統文化体験授業を実施しています。
新たな価値創造→高齢者向け箏を用いた音楽療法箏回想法🄬の考案・実施により福祉施設の集客・広報を担う
邦楽人口減少に歯止めをかけるための3つの工夫
箏回想法考案・実施から3つのことに注力して参りました。
1、経営感覚を身に着けること
2、箏演奏以外の付加価値をつけ、それを周知できること
3、時代に合わせて箏を長く続けられるような仕組を作ること
具体的には順番にみていきましょう。
1、経営感覚を身に着けること
家元制度に身を置き、自分でも教室運営をして感じたことは大きく3つあります。
・習う側が長く続けられる制度ではない
・若い世代が楽しく無理なく続けられる価格設定・価値を提供が出来ていない
・教える側も箏曲の価値を伝えられず長続きする仕組化が出来ていない
邦楽の世界に長く身を置いた人ほど、気の遠くなるような時間とお金をかけてそこに到達しているため、既存の制度やそのやり方を疑いなく続けているように思います。中には「今の若い人は続かないから…」と話す先生もいらっしゃいますが、時代に合わせて価格や仕組み・広報の仕方を変えることも邦楽に携わる者の仕事だと考えます。
何か活動をするには、お金が必要です。だから一方だけがお金を取り続けるような制度や仕組みは長く続かないのです。教える人・習う人・習ったことをまた教える(発表する)人・聴く人、皆で価値の交換がなされなければなりません。 お金以外の価値についても考え、どんな価値を誰に提供できるのか?そして、それを提供し広がるとどんな社会的意義があるのかまでを考えながら経営していく必要があると考えています。
2、箏演奏以外の付加価値をつけ、それを周知できること
箏曲演奏の価値は何ですか?と聴かれてどんな人でもわかるように答えられないのはプロではありません。「価値がないです」と言っているのと同じです。また、どんなに素晴らしい演奏会を行っても聴く人にその価値が伝わらず、聴いていない人にその周知がなされなければ、「何もやらなかった」のと一緒です。
これを踏まえて、具体的に工夫したことは「選曲」です。対象をどんな人にするかによって選曲は大きく変わります。
ここでは、すそ野を広げようとしている場合を想定して話しを進めますが、すそ野を広げる目的の演奏会の場合、純邦楽が出来るからといって古典の演奏をしても、聴衆にすばらしさは伝わりません。それがわかって聞きに来るのは玄人や経験者です。全く邦楽に触れたことのない人に「このすばらしさをわかってくれ」とごり押しする形は最もやってはいけないことです。聴きたい曲は何なのか、リサーチしながら進めるのも大事な仕事です。
私は、7年前の震災をきっかけに箏回想法を考案し、箏回想士としての活動をスタートさせましたが、自分が習ってきた曲の披露をしたことがありません。「箏の演奏と思っていたら全く違ったもので感動して涙が止まらなかった」とのご感想をいただき、高単価での受注を続けている理由は、事前リサーチで箏回想法導入決定者の要望、また聴衆を調べ、トーク・選曲まで全て心に寄り添っているのかで曲やその他全てを決定しているからです。これを箏曲に箏曲以外の価値を付けた状態として提供しています。これが箏の演奏だけならば箏回想法導入決定者・聴衆に価値は伝わらずご依頼には繋がらないでしょう。
3、時代に合わせて箏を長く続けられるような仕組を作ること
既存のやり方・制度に固執すると、価値の洗い出しが出来ない(なされない)→弟子に価値が伝わらない→弟子も価値が見いだせず続かない→教える側も疲弊する】の負のループに陥ったままでは先細りを防ぐことは出来ません。
時代に合わせた仕組を作り、また一度作った仕組みはその後どんどん少しづつ変えていく必要があります。
もし、短期間で価格もハッキリ見えて、お稽古や資格取得の機会まで時間を決めて取り組めて、その先の仕事紹介の仕組みがあったらいかがでしょう?もちろん箏を仕事にするかしないかは自由です。
今後の見通し
以上が、邦楽の危機に対して行っている工夫です。
引き続き箏を用いた音楽療法「箏回想法🄬」で人々のお役に立つために2つの事を行います。
①箏回想法の効果についての研究
日々、福祉施設の経営者と接する中で、エビデンスを示す必要性を強く感じています。研究者の方々にご協力いただき箏回想法が認知症・高齢者の方々にどのような効果があるのかを追求します。
②箏回想士の育成
箏回想士の質をキープしたまま人数を増やすことを考えています。私の箏回想法における目標は「日本中の福祉施設にピアノやギターの音楽療法があるように箏回想法があふれている状態を作ること」です。この目標を達成するには、その志を共有し、箏回想士として活動してくれる仲間を募り育成することが必要です。
危機に瀕して、私にできることをコツコツと進めていきます。
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